最近私は、完全ワイヤレスイヤホンばかり使用しています。
なぜ冒頭にそんなことを言ったのかといいますと、今回有線のイヤホンをレビューするにあたり「また有線のイヤホンに戻るかもしれない」と思わせてくれたイヤホンと出会ったからです。
今回はSIMGOT様よりご提供いただいた「EM2」をレビューさせていただき、レビューをしていきたいと思います。
SIMGOT社とは?
中国に拠点を置くオーディオメーカーですが、イヤホンを趣味にされている方は一度は聞いたことがある名前だと思います。
なにせあの名機、「EN700Pro」を世に送り出したメーカーなのですから。
私もイヤホン専門店で視聴したことがありますが、見た目のおしゃれさとは裏腹に真面目な音作りに感心していました。2万円近くするイヤホンは当時学生だった私には手に届きませんでしたが、いつか手に入れたいと思わせるようなある意味憧れの存在でした。
日本での販売を一時撤退していたようですが、このSIMGOT EM2をきっかけに日本での販売を再開されたようです。だからこそ今回このイヤホンレビューの依頼をSIMGOT社から頂いたときに、本当に嬉しかったです。
開封の儀
では早速、開封をしていきましょう。開封をしているときが一番ワクワクしますね。
パッケージはカラフルなラインアップを揃えているとは思えないほどシンプルで上品なパッケージです。
「洛神系列」と書かれていますが、ここで言う「洛神」は古代中国の伝説に出てくる水と川を司る洛水の女神です。あとで知ったのですが、無双OROCHIシリーズで登場する「伏儀」の娘さんです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B4%9B%E5%AC%AA
MEE AudioのPinnacle P1という機種を5年ほど使用していますが、あの時の観音開きのパッケージを思い出すかのような魅せ方ですね。
本体とケースを取り出したら、下にはケーブルと説明書などが入っていました。
魅力1:付属品の質がかなり高い
このイヤホンの大きな魅力の一つとして、付属品の質がかなり高いということが挙げられます。
まずは高級感のあるケースからチェック
まず気になったのはこのケースです。非常に上質で高級感があり、1万円ちょっとのイヤホンに付属しているものとは思えないほど良かったです。
音質の傾向を変えられるイヤピースをチェック
音質にこだわっているということもあり、2つの異なるタイプのイヤピースが付属しています。
こちらは「高域強調型イヤーピース」です。中高音を強調し、音の解像度と透明感を出すのに適したイヤーピースです。
こちらは「バランス型イヤーピース」です。低音を増強し、聞き取りやすく破擦音を抑え落ち着いた厚みのある音を出すのに適したイヤピースです。
両者のイヤピースを並べてみました。確かに穴の大きさ、軸の長さが違っている事がわかります。
高耐久性のケーブルをチェック
次に、ケーブルをチェックしていきます。
「4芯銀メッキ混合編線」というグレードの高いケーブルが採用されており、信号の損失を抑え音の透明感や分離を高めているようです。一般的に酸化銅は厚みのある低音域、銀は澄んだ高音域を出すことに貢献していますので、そのいいとこ取りをしたケーブルと言えます。
触った感じでは非常に取り回しがしやすく、小さく丸めやすいので収納しやすいです。私は8芯構成のケーブルを持っていますが、太い上に固いため少し取り回しづらいと感じたことがありました。
また、「400Dケブラー皮膜」という軍のテントでも使用されている丈夫な素材を採用していることもポイントです。リケーブルできるとはいえ長持ちしてほしいので、断線しづらいという点は高く評価できますね。
断線といえば、一番負荷がかかりやすいのがイヤホンの根元部分だったりします。いわゆるプロユースのイヤホンではよく金属で丈夫だったりしますが、一般的なイヤホンはここはゴムやプラスチックで補強してあるだけという機種も少なくありません。
EM2は、なんと金属でできています。それに加えて端子は金メッキで加工してありますので、サビに強く信号の損失を最小限に抑えてくれます。さすがですね。
そしてイヤホンの左右に分離する部分も、断線の元です。ここも多くのメーカーはプラスチックで補強してある事が多いのですが、高強度の金属パーツとプラスチックを組み合わせて強度を上げています。
ケーブルをまとめるバンドも付いていました。これって100均でも買えますが、それでも僕が今まで購入したイヤホンではどれも付いていませんでした。
ケーブルは編み込みされていると絡まりやすかったりするので、しっかりまとめるバンドも付いていると安心ですね。
2Pin端子を採用し、リケーブル可能です。ここもよくある2Pin端子はむき出しになっているものもあるので、金属パーツでしっかりカバーされている点はさすがですね。
ケーブルは弱点になりそうな部分を補強するために金属パーツがふんだんに使用されており、さらにケーブルの皮膜自体も軍のテントなどで使用されるような高強度のケブラー不膜を使用しています。長く使ってほしいというメーカーの思いが伝わってきますね。
そしてケーブルは「シュアがけ」がしやすいようにくるっとカーブがかかっています。この「シュアがけ」には、以下のメリットがあります。
- イヤホンが耳から外れにくくなる
- ケーブルが衣服に当たることによるタッチノイズを抑えることができる
よく歌手がライブでこのようなイヤホンのかけ方をしていますが、上記のようなメリットはたしかにステージで歩き回る歌手の場合は大きいですね。
魅力2:本体もまるで宝石のように質感が高い
付属品だけを見てもかなりのこだわりが見られるのですが、イヤホン本体もかなりこだわりが見られるデザインとなっています。写真も多めでご紹介していきます。
私はクリアブラックを選びましたが、ゴールドの端子類と色がマッチしていて気に入っています。他にもグリーンやピンクといったカラーバリエーションがあります。
ボディはクリアで、中のケーブルや金属パーツなどが見えています。この角度では10mmのダイナミックドライバーが見えますね。
EN700PROに入っていたダイナミックドライバーと同じと聞いていたのでもっと大きいのかと思いましたが、意外にコンパクトなんですね。
この角度からはバランスド・アーマチュアドライバー(以下BA型ドライバー)が下部のステム近くに見えます。そう、このEM2はハイブリッド型という、ダイナミックドライバーとBA型ドライバーを組み合わせたイヤホンなんです。
BA型ドライバーは補聴器の技術を応用したもので、澄んだ高音域やボーカルの声が生々しく聴こえるためよく高価格帯のイヤホンで用いられています。3BAや6BAといわれるイヤホンは高音、中音、低音用のBA型ドライバーを組み合わせていますが、このEM2は「フルレンジ」と言われる高音から低音までまんべんなく鳴らすことのできるBA型ドライバーを使用しています。
しかもハイブリッド型の中でもフルレンジのダイナミックドライバーと中高音域用のBA型ドライバーの構成がトレンドですが、2つのドライバーともフルレンジ構成という機種はあまり見たことがありません。SIMGOT社では「パラレル型ハイブリッド方式」と呼んでおり、各ドライバーのインピーダンスや出力バランスを最適化しているようです。
上部は2Pinを入れる端子があります。そして先程から見えているこの金色のステム(耳に入る部分の筒です)が素敵ですね。
スピンドル加工されているので、離れて見たときに個性を演出してくれます。光の当たり具合でキラッとするので、まるで宝石を耳につけているかのような感じです。
イヤピースをつけてみました。本体のステムの入り口とイヤピースの出口の感覚は狭いので、音はダイレクト感が強そうですね。また、金属性と思われるネットで本体へのゴミの侵入を防いでいる点もいいです。
さて、先程のきらびやかなケーブルを本体につけてみました。
ローズゴールド気味の金属パーツと金色、クリアブラックの組み合わせがかっこいいです。
実際に装着してみました。僕の耳には非常にフィットしています。
魅力3:感度が高いためスマートフォンなどの非力なアンプでも鳴らしやすい
最近はDAPではなくスマートフォンで聴くことがほとんどですので、iPhone XSで聴いてみました。
まず感じたのは、普段使用していたPinnacle P1よりも音が大きいということです。Pinnacle P1の場合はインピーダンスが30Ω以上ということもあり、スマートフォンで聴く場合は8割ぐらいの音量で出さないと鳴らしきれませんでした。いわゆる高価格帯のイヤホンは抵抗が高めので、別途アンプを使用する前提だったりします。
しかしEM2はiPhone XSでも半分以下の音量で十分に大きな音が出ます。インピーダンスが低いのかなと感じていたのですが、仕様書を見ると10Ωでした。一般的なイヤホンは日本市場では16Ωであることが多いので、平均よりも低い音量設定でより大きな音を鳴らすことができます。
インピーダンスが低いことは電力消費を少なくすることにつながるので、若干スマートフォンのバッテリー持ちが良くなるなどメリットがあります。
デメリットとしては、抵抗値が低いとその分ノイズも拾いやすくなるということでしょうか。とはいえ低いインピーダンスを前提にイヤホンが設計されていますので、気になるようなノイズは感じませんでした。
魅力4:ボーカル中心の楽曲に非常に合う
EM2は多くのレビューで「ボーカル中心の楽曲に合う」と評価されています。結論から言えば、ボーカルに限らず透明感のある高音でかつ温かみがあるため、バラードを聴くのに向いているイヤホンであると感じました。また、ギターのカッティングを含めアコースティックな乾いたキレキレの音も得意分野です。
今回は中高音域を聴きやすくするために、「高域強調型イヤーピース(Eartip1)」で聴いてみました。また、iPhone XSのイコライジングは「iTunes Perfect」という音のメリハリが出やすいチューニングに設定しています。
家入レオさんの「チョコレート」をまず聴いてほしいです!
このイヤホンの魅力を語る上で外せない楽曲が、家入レオさんの「チョコレート」です。僕はイヤホンを購入するときに鉄板で聴く楽曲がいくつかあるのですが、その一つがこの曲です。昔コンビニの深夜バイトをしていたときに店内放送でよくかかっていて、分かりやすいサビと思春期のどこか切ない雰囲気が好きでした。
イントロのギターとおそらくキーボード(リードの少し金属音ぽい楽器が何か分かりませんでした)の音を聴いた瞬間に「おっ」という声が出るほど気持ちが良かったです。
ギターは倍音が多く温かみがあり、キーボードは倍音が少ないので透明感のある気持ちのいい音になります。
ここにパラレル型ハイブリッド方式のドライバーの優位性が働くと感じていて、温かみのあるギターはダイナミックドライバー、透明感のあるキーボードはBAドライバーの得意分野と感じています。聴いているとその通りの結果となっていて、EM2ならではなのかなと感じています。
もちろん家入レオさんの美しい声も非常に伸びがよく、息遣いも感じられ本当にそばで歌ってくれているかのような錯覚さえ感じました。
欅坂46の「世界には愛しかない」の「時計の音」もしっかり聴こえる
イヤホンの解像度という視点でよく聴く楽曲は、欅坂46(現櫻坂46)の「世界には愛しかない」という曲です。
実はこの楽曲、序盤のスローテンポなピアノソロからテンポチェンジしてイントロへ移るわずかな無音の時間に、かすかに時計の「カチカチカチ」という音が聴こえるんです。そしてこの時計の音は、解像度の高いイヤホンでしか聴こえません。
モニターヘッドホンなど音を分析して聴くような機材、またはPinnacle P1のような抵抗値が高くノイズが少ない、音の純度が高いイヤホンではこの時計の音はかなりくっきり聴こえます。いわゆる「ウォームな音」と言われるイヤホンではまず聴こえません。
EM2でも試してみたところ、しっかり時計の音が聴こえました。
あのイヤホンでは聴こえていた音がこのイヤホンでは聴こえないなどよくありますが、EM2においてはそのような心配もなくアーティストの伝えたい音がしっかり伝えきれているという意味でレベルが高いイヤホンであると感じました。
もちろん曲自体も聴いていて心地よく、ボーカルもいいですがギターのカッティングの音がキレキレで気持ちいいです。粒立ちのいい音と表現するとしっくりしますね。
このイヤホンの欠点:現時点で見当たりません
SIMGOT社の担当者の方にも自由に感想を書いていただいても構わないということでしたので少しでもアラを探そうとしましたが、あらゆる点で合理的であると感じたため欠点は感じませんでした。
まず音に拘るオーディオマニアの方は、出力の高いアンプを使用していることが多いためインピーダンスの低いEM2は合わないでしょう。しかし、このイヤホンのメインターゲットはおそらく普段スマートフォンで圧縮音源を聴くようなライト層であり、それであればインピーダンスを低くして非力なアンプでも鳴らし切る構成のほうが適しています。
また、比較的メジャーなMMCXではなく2Pinであるという点も気になりましたが、そもそもライト層はリケーブルを楽しむような方ではないでしょうし、この付属のケーブルも耐久性が高く十分高品質であるため欠点とは言えません。強いて言えば、スマートフォンを中心に音楽を聴くようなユーザーをターゲットにしているのであればマイク付きで手元でコントロールできるようなケーブルも合わせて付属しているとなお良いと思います。
それよりも、私の想像を上回るぐらい細かい部分も妥協なく気配りがきいていて素晴らしいと感じました。先程は紹介しませんでしたが、例えば下記の端子部分をごらんください。
よく見てください。カバーが付いています。「えっ、そんなこと?」と思うかもしれませんが、まず1万円前後の価格帯のイヤホンで日本メーカーが端子にこのようなカバーを付けることはまずありません。だいたいむき出しのまま梱包されています。
金属は酸化するという性質上できる限り空気に触れないように、そして傷もなるべく減らしたいしたいものですが、このようにカバーがあれば使わない時の保護もしやすいですよね。
EM2は、使用していて想定されるあらゆるリスク(断線・端子部分の酸化による接触不良など)を軽減しつつ長く使えるイヤホンでもあると感じました。
EM2をよりよく聴くための私の提案:イヤーピースを変えてみる
さて、EM2は確かに良いイヤホンであることは確かなのですが、正直に言います。
イヤーピースを「SpinFit CP100」にすると化けます。
純正イヤーピースが駄目とは言いませんが、Eartip1では空間の表現と低音域の迫力が足りない、Eartip2では透明感のある高音がマスクされせっかくのEM2の良さが出し切れないと感じました。
SpinFitは先端が耳孔に合わせて曲がってくれるため、イヤホンの出す音を余すことなく鼓膜まで届けてくれます。
また、イヤーピースの中では長い部類なので、音場感を出したいときによく使用します。
これで再度家入レオさんの「チョコレート」を聴いたところ、ギターの倍音の響きがさらに広範囲に広がり、家入レオさんの声の響きも明らかに広がりました。また、低音域もEartip1より深いところまで出るようになりましたので、ロックを聞く場合はこちらの組み合わせが良いです。
ちなみにFalcon2の記事で絶賛していたJVCのスパイラルドットは開口部が大きいですが、EM2の長めのステムに対して傘が浅いのであまりEartip1との違いが感じられませんでした。
音を解析するような聴き方をするのであればEartip1でも十分ですが、もっと音場感を広くして音を演出して楽しみたい方はぜひSpinFitを使ってみてください。
SIMGOT EM2はこんな人にピッタリ!
さて、ではこのEM2はどんな方にぴったりなのかをまとめてみます。
- スマートフォンを中心に音楽を聴いている
- 耐久性にこだわって長く使えるイヤホンを探している
- ハイレゾ対応でリーズナブルな値段のイヤホンを探している
- よく歩きながら使用するためタッチノイズが少ないイヤホンがいい
- ケーブルの断線に備えてリケーブルできるイヤホンがいい
- 付属品が充実していると嬉しい
- 見た目もおしゃれでかわいいイヤホンを探している
- 従来のハイブリッド型イヤホンが嫌い
8番目に挙げた「従来のハイブリッド型イヤホンが嫌い」という点ですが、実は過去にF社の25,000円ぐらいのハイブリッド型イヤホン、A社の20,000円ぐらいのハイブリッド型イヤホンを使用して、どれも私の好みに合わず手放したという経緯があります。具体的には、中低域の音が明らかに弱い、高音が刺さる、音の数が増えたときに解像感が下がるなどです。その経験もありそれ以降ダイナミックドライバー一発の構成のイヤホンばかり使用しています。MEE AudioのPinnacle P1はそういう意味で音場もヘッドホン並に広く、音の分離もかなりいい、ノイズも少なくリアリティのある音で5年ほど使用しています。
BA型イヤホンはネットワーク回路で音を分割させる高度なチューニング技術が必要なため、高いイヤホンでも「あれっ、値段ほどいい音がしない」ということはよくあります。イヤーピースを変えれば好みの音質に変わればまだいいのですが、なかなかそうならないのが現実です。
EM2は明らかなハイブリッド型ではなく、両ドライバーともフルレンジ構成ですので非常に音のつながりが自然に感じました。ベースはダイナミックドライバーで、高音の透明感などを感じたときに「これってBA型ドライバーの恩恵かな」と感じるぐらいです。そういう意味では、今までハイブリッド型イヤホンが嫌いだったという方にもおすすめしやすいです。
このイヤホンを通じて、今後有線イヤホンも積極的に使用していきたいと感じるようになりました。一時は日本市場を撤退したSIMGOT社ですが、EM2はSIMGOT社の本気を感じられる名機だと感じました。ぜひ多くの方の手に取っていただき、今後も魅力ある製品を作っていただきたいです。